万三郎岳

Sceneken

2019年02月27日 21:42


【霧に煙る天城の森】


2019年の登山本格始動です。
今年最初のアタックに選んだ山は表題の“万三郎岳”。
「万三郎岳って何処にあるどんな山? 」そんな質問が聞こえてきそうです。
では“天城山”と言ったら知らない方はいないでしょう。

“天城山”の名前を持つ山(ピーク)は伊豆半島の何処にもありません。
伊豆半島のほぼ中央部を東西に伸びる山塊を総称して天城連山と言います。
殆どの地図では天城山と表記してあるので天城山の名前がまかり通っているのです。
この山塊の主峰で伊豆半島の最高峰が“万三郎岳(1,405m)”です。

【後方の山並みが天城連山 中央のピークが万三郎岳】 晴天ならこの眺望が楽しめたのだが・・・

天城山(万三郎岳)は特別高い山でもなく難易度も高くはないが、深田久弥はこの山を日本百名山の一つに加えている。
当時伊豆半島の山に関する詳しい地図がなかったし特別興味も無かったが、川端康成の『伊豆の踊子』や井上靖の『しろばんば』など名だたる作家の代表作の舞台になっていてその知名度の高さは気になっていた、と深田は言う。
日本の殆どの名峰を登り尽くした後にこの山に登った彼は、改めて天城山の魅力に惹かれて百名山に加えたのではなかろうか、と僕は推測する。



前日に天気予報で晴れの予報を確認してから決行している僕の登山は好天に恵まれることが多いが、今回は完全に当てが外れてしまった。
伊豆半島は相模湾と駿河湾に挟まれているために海と陸地の温度差で雲が発生し易く特に山間部の天候は不安定だ。
昨日平野部は晴天であったし、登山口ではまだ期待感があった。

しかし1,000m辺りから雲行きが怪しくなり、1,200mから上は完全にガス(雲)の中!
時には霙(みぞれ)混じりの雨が降っていた。
ここまで天気予報に完全に裏切られた登山は初めてである。
がしかし、良いこともあった。




天城山はさほど高い山ではないので山頂部を含め全山森に覆われている。
それもブナや在来種など手付かずの原生林が多い。
静寂の中、霧に包まれた幻想的な森を歩くのも悪くはないと思った。


時々鹿の姿を見掛け、聞こえてくるのは野鳥の囀りだけである。
まるで童話やメルヘンの世界がそのまま現実に降りてきたような光景が展開する。
2時間ほど続く深い森歩きはあたかも夢の中にいるようであった。
霧(雲)の中を歩くこと、鹿と出遭うこと、野鳥と対話ことは登山していてよくある。
が、今回は何かが違っていた。
それを演出してくれていたのは天城の山とこの深く神秘的な森だったのかも知れない。


帰りに沼津で友人の店に寄って美味しい珈琲を頂きながらマッタリしてきた。

私と共通する趣味が多い友人もまた写真家で登山家である。
彼は万三郎岳へは数え切れないくらいの回数登っている。
山頂近くにブナの森があり、樹齢500〜1,000年の巨木が林立している。
友人はブナの巨木の写真を見れば何処にあるどのブナの木か一目で分かるという。
三國蓮太郎ブレンドをいつも変わらぬ味で淹れてくれる彼もまた神秘的な男である。