古の京丸集落を想い

Sceneken

2020年05月06日 23:24


【無人の、でも生命を感じる京丸の里】


南北朝時代、貴族藤原氏が戦乱の京(みやこ)を逃れ落人として各地を彷徨い最後に辿り着いた異郷の地、落人以外は誰も立ち入ることの出来なかった辺境、400年もの長い時間その存在すら誰にも知られることがなかった秘境、そして京丸牡丹伝説が生まれた隠れ里、其処はとんでもなく山深い奥のまた奥にあった。
何故にここまで逃れて来なければならなかったのか、如何にしてここまで辿り着いたのか、古(いにしえ)の彷徨い人の心境を察するに余りある。



藤原一族の末裔(第19代)が1930年まで住んでいた家は今も残っている。
先々代までが使っていた旧家は明治に焼失して今の家は築130年だそうだ。
物資も材料も道具もそれらをここまで運び込む手立ても、何もかもが無いこの山深い地に如何にしてこのような家を建てられたのか想像を絶する。

藤原氏が離れざるを得なかった京の地を偲ぶにその苦渋の胸中が屋根瓦に表れていた。
鬼瓦に見られる家紋『葉菊』と『京』の字に、藤原氏が京を離れたことへの無念の思いが浮び上る。




京丸の深い谷間に耳を傾けて澄ますと、聞こえてくるのは水のおしゃべり。
岩肌を滑る伏流水の呟き、沢を降る流水の囁き、やがて清流京丸川に交わり流れる水の歓喜乱舞。





人を寄せ付けない深い谷、屏風を思わせる迫りくる山並。
ここは人間世界とは無縁の大自然の真っ只中、水音以外に耳を擽ぐるのは鳥の囀りと風の戯れの響きだけ。



この時空、僕は大好きだ。