
スペイン内戦で、人民戦線の兵士が死ぬ瞬間をとらえたとされるこの1枚は、世界で最も有名な写真となった。
この写真を撮ったとされるユダヤ人青年ロバート・キャパは一夜にして報道(戦争)写真家の"神"となった。

しかしその後真贋論争が絶えない作品でもあった。
私もこの写真を初めて目にした時驚愕した、と同時に本当にその瞬間を撮ったものか?と懐疑心も持った。
一昨日の『NHKスペシャル 推理ドキュメント"運命の1枚"』を見て全てがクリアになった気がする。
作家沢木耕太郎氏のあくなき追求心と現代科学の力で、この1枚の写真の裏側が鋭く解明されていく。
まるで刑事コロンボが難解な完全犯罪を解き明かしていくような推理の流れに吸い込まれてしまった。
この写真の撮影場所は周囲の山の稜線などからスペイン南部エスペホの丘と特定された。
当時の兵士の証言から、キャパ撮影当時ここでの戦闘は一度も無かったことが判明。
この写真は戦闘訓練中の様子を撮ったものであった。
また撮影に使われたカメラは、画角・サイズからキャパ所有のライカでは無く、恋人ゲルダ愛用のローライフレックスであることも立証された。

今現在残されている写真と、証言・記録・データから導き出された結論は・・・。
この写真を撮った人物は、ロバート・キャパではなく恋人のゲルダ・タローであり、崩れ落ちる兵士は撃たれた瞬間ではなく戦闘訓練中にスリップして転ぶ瞬間であること。
諸々の記録からこの事実は疑い様がない、と僕も結論づける。
この推理ドキュメンタリーがここでピリオドを打ってしまったら、ロバート・キャパはただの偽善者で終わってしまう。
沢木耕太郎氏は、この後の人間ロバート・キャパをドラスティックに切り込み表現している。
恋人ゲルダは戦争写真家として兵士と一緒にヨーロッパ戦線に出向き、ドイツ軍の戦車に引かれて殉死する。
この写真がマスコミメディアに紹介されたのはゲルダ死の直後であった。
タイトル「崩れ落ちる兵士』、撮影者ロバート・キャパとして。
発表直後この1枚が大きな反響を呼び、キャパは一躍脚光を浴びて偽りの“神”となり、この写真撮影に関する経緯を一切口にしなくなる。
ロバート・キャパはとてつもなく重い十字架を背負ってしまったのである。
その後自暴自棄に陥ったキャパは、遮二無二戦場に向かうことになる。・・・それも死と背中合わせの最前戦へ。
そんな中撮られ発表された写真が『ノルマンディー上陸作戦』である。

ドイツ軍の砲火が頭上を飛び交い周りで連合軍兵士がバタバタ倒れて行くなか、敵に背を向けて兵士の表情を捉えようとシャッターを押し続け命をかけて撮られた1枚。キャパはこの写真で初めて本物の「神」となったのである。
その後も最前戦を追い続けた彼はベトナム戦争を最前戦で撮影中、地雷を踏んで帰らぬ人となる。
享年41歳であった。
沢木耕太郎氏。キャパへのオマージュに満ち溢れた見事な記録を作られた、と感銘をうけた。
感銘を受けると僕の身体は武者震いするように震えて来る癖がある。
このプログラムを観て久し振りに身体が震えた。
ブログを読まれている方にはお願いがございます。
『NHKスペシャル 推理ドキュメント"運命の1枚"』(2月3日NHK総合21:00~)を録画されている方いましたら、DVDに焼いてお分け頂けないでしょうか。
居りましたらSceneまでご連絡下さい。
基本的に私は録画記録は一切しない人間ですが、このプログラムだけは保存版としてどうしても欲しくなりました。
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