
【吉田博作 『利尻島』 まるで水彩画のような、でも木版画】
静岡市美術館に吉田博展を訪ねてきました。
作品の素晴らしさに痛く感動したので報告します。
"世界を魅了した、多色摺木版の極致"、まさしくその通りです。
レオナール藤田同様、日本より海外で高く評価され知名度も海外の方が格段に高い吉田博。
そして、吉田はヨーロッパよりもアメリカでより広く知られ高く評価されています。
「何故吉田博は日本より海外で先に評価されたのか、そして何故ヨーロッパでなくアメリカなのか?」
そこには黒田清輝との深い確執が関わる。黒田清輝と言えば、有志を募って"白馬会"を立上げ日本画壇の中心的存在となる。一方吉田は群れることを好まず、また他人に染まることも好まず個人で活動する。結果吉田は日本画壇から爪弾きされ絵画展などに思うように出品参加出来なくなる。
『口論のすえ吉田が黒田を殴った』逸話は有名である。
吉田は活路を海外に求め、それも黒田が訪れたヨーロッパ(パリ)ではなく自由な国アメリカを選択した。実力がある吉田の作品(当時は油彩・水彩画)はアメリカで人気を博しその存在は広く知れ渡る。成功をおさめた吉田はその資金を基に世界中を観て回りスケッチする。
アメリカンドリームと言うか、吉田博のサクセスストーリーです。

ヨーロッパ絵画の写実主義と日本伝統の木版画を融合させて大正14年前後から本格的に木版画の制作に取り掛かり、それらがヨーロッパ・アメリカで大ブレイクします。
ダイアナ妃やフロイトなど多くの著名人が吉田博の作品に惹かれたのは有名な話です。


ダイアナ妃の執務室に飾られている作品「瀬戸内海」です。
これと同じ作品が静岡市美に展示されています。
さて、吉田博の作品を観て、ただただ"驚愕"の一言❗️
あの細かな部分の色付けはどうやってるのだろう?
グラデーションはどのようにつけているのだろう?
木版画ながらこの空気感はどう出してるのだろう?
絵の深み(奥行感)をどのように出しているのだろう?
吉田博が創作した作品群、これが木版画とは俄かに信じられません。

この作品から現地の気温・空気・匂いを感じ取れました。
作品の前に暫く佇んでいるとコーランが聞こえてきました。(私の耳には)
江戸時代の浮世絵がそうであるように木版画制作は基本的に絵師、彫師、摺師が居て分業で制作します。
吉田博作品も同じで下絵を吉田が描き、それを基に彫師・摺師があと工程を受け持ちます。
但し、細かい指示や要請は最終工程まで絵師(吉田)が行います。
吉田博は様々な方法(技術)を試みています。
例えば、同一の版木を使って使用する絵具(色)を変えることで季節・時間を変える手法を採っていました。
同じ版木から制作された作品とは思えないほどの表現力です。

この2作は同じ版木を使って色だけを変えて摺ったものです。
吉田博は登山家としても有名です。
頻繁に山に通い、また長期間山に入ってたくさんの山岳作品を制作しています。
登山愛好家の端くれとして大変嬉しく興味深く拝見しました。
作品の中には私も登った山が幾つかあり嬉しくなりました。

【白馬岳】

【槍ヶ岳】
驚くことはまだあります。
浮世絵では摺る回数が平均10回ほどです。
が、吉田博の作品は平均でも30回、最も多い作品(日光東照宮陽明門)では96回摺って完成するそうです。
実物を凝視しましたが、その細かさに私の老眼では細部が見分けられませんでした。

【陽明門】
吉田博展は海外では頻繁に開催されていますが、日本でこれだけの規模で開催されるのは久し振りのことです。
この機会に是非静岡市美術館に出掛けてみてください。
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